『リトル・ミス・サンシャイン』
ただし、情けなさの中にある人生の真実(とささやかな希望)を見逃してはいない。何と言っても、クライマックスに訪れる美少女コンテスト場面が素晴らしい。全く噛み合っていなかった家族の心が、「ここに情けなさ極まり」という形で一つになる。爆笑しつつも、目頭が熱い。本当に充実した人生とは何なのだろうと考える。
それが最も顕著なのは、繰り返し挿入される、黄色いバンにエンジンをかけて乗り込む場面だろう。バラバラの家族の心が、このときだけは一つになる。ポンコツという言葉がピッタリのバンに一人ずつ車に飛び乗る絵の可笑しさが、この家族を象徴している。クラクションの音のあまりのマヌケさも注目に値する。この場面の繰り返しがボディブローのようにジワジワと効いてくる。素人臭く、狙いが透けて見え過ぎだけれど、それすら愛しさに変わる瞬間が、確かにある。
多分それは脚本の力が大きいのだろう。ウィットとペーソスに満ちたダイアログ。徹底した悲劇の喜劇への転換。何より、決して忘れられることのない家族への厳しく優しい眼差し。一番大切なもの、映画の命と呼ぶべきものにブレがないゆえの力強さが頼もしいのだ。もちろん役者たちもそれに十分応えてる。名アンサンブルというのはこういうのを言うのだろう。それぞれが互いのリズムを奇跡のように捉えている。彼らの泣き笑いの中に「ホンモノ」が見える。